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ほんとうのことが知りたい ほんとうのものをつくりたい

2017/11/07/(火)

 癌が何も医療を受けないで、治ってしまうことがある。「癌の自然退縮」という現象だ。奇跡的治癒といってもよいが、奇跡はいつ起きるかわからないし、どうしたら起きるかもわからないので科学的研究の対象にはなりにくい。しかしこの現象そのものは医学的な症例報告が文献報告されていて、「癌の自然退縮」という現象が存在していることは否定できない。癌を専門とした医療を長年行っている医師は、標準的治療では治ることが難しい患者がまったく医療を受けずに治ってしまったり、軽度の治療だけで治ってしまった症例をまれに経験することがある。


 私も外科医として手術を行っているときに、ある高齢の女性が胆のう癌になり、切除可能とカンファレンスで判断されて、開腹したところ、肝臓に深く浸潤しており、広範囲な肝切除をしなければ胆のう癌が切除できない症例があった。外科医はこういう時、リスクをとってもチャレンジしたい気持ちが生じるのだが、患者さんのQOLを考えると大手術をしない方がよいと判断して癌の一部を生検してそのまま閉腹したのだった。患者さんには、できるだけ癌を取り除きましたと説明し、家族には手術の状況を説明した。その患者さんはそのまま手術創が治って退院し、元気に通院された。CTでは胆のう癌はやや小さくなったまま増大もせず、五年間は時々顔を見せてくれていた。その後も元気にしているとのことだったが、十年後、別の病気でなくなった。また現在、統合医療で開業してからも、自然退縮の定義からはややはずれるが、通常ではありえない回復をしている胃癌、膵癌、十二指腸癌、乳癌、肺癌の患者さんもおられる。もちろん手をつくして治療したにも関わらずなくなって残念な思いをする患者さんも数多くおられる。


 「癌の自然退縮」。この驚くべき現象を知ったのは、もう四十年以上も前のこと、日本に心療内科を創設された池見酉次郎先生の学生への講義の時だった。肺癌のX線検査で左肺が真っ白になり、喀淡からは癌細胞が多量に出ていた患者が、何の医療もしないで治った症例をはじめとして「癌の自然退縮」という現象が存在することを何例も示された。私は大感激をして、授業の直後に池見先生のもとにかけ寄り、「先生、これはすごいですね。これができれば、癌の外科医も内科もいらないじゃないですか」と言った。教授は「そうなんだけど、そう簡単にはいかないんだよ」と言われた。「どうすれば、癌が自然に消えるんですか」と質問すると、「癌の自然退縮を起こした人を詳しく調べると、『実存的変容』が生じているんです」と答えられた。「へー、『実存的変容』って何なんですか」とさらに質問すると、「それは考え方がガラリと変わり、それから生き方も大きく変わることなので、そう簡単には起こらないんです」と言われた。それからというもの、『実存的変容』、『実存的変容』…いったいそれは何なのか。どうしたら起こすことができるのか。それが私の大きなテーマになってしまった。(つづく)